患者の損傷した脊髄を治療
アメリカのバイオベンチャー企業のジェロンは2010年10月11日、
ヒトES細胞(胚性幹細胞)を使用した世界初の臨床実験を開始したことを発表した。患者については明らかにされていないが、ジェロンによると臨床実験はジョージア州アトランタの脳神経リハビリ病院で行われているとのことである。
ES細胞は受精卵の胚からつくられ、理論上ではどんな細胞にでも姿を変えることができ、かつほぼ無限に増殖させることができる万能細胞である。病などで失った臓器や骨組織、正常に働かなくなった神経を再生できる可能性があるとして研究が進められている。
臨床実験の内容は、胸部の脊髄を損傷して胸部より下がまったく動かせない患者にES細胞を注入し、
脊髄を再形成することで下半身の働きを取り戻すというもの。再形成された脊髄で損傷部分を覆うことを、ジェロンのトーマス・オカーマ最高経営責任者は外部が破損して内部の配線が露出し、回線がショートして使えなくなった電気ケーブルに例えて説明した。
今回の臨床実験における目標は、
ES細胞を使った治療法の安全性と
人体に使用することで副作用や拒絶反応などが出ないかどうかを確認することにある。ヒトES細胞での治療が成功となれば現代医学がさらに進歩することとなるだろう。
しかしその一方でヒトES細胞をつくる際に受精卵、すなわちこの世に生を受けた命を使用することに「倫理的に問題がある」という批判もある。画期的なことではあるが、手放しでは喜べないのもまた事実だろう。
ジェロン(英文)
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